この度KATSUYA SUSUKI GALLERYでは2024年11月9日(土)より、伊藤美緒と宮川遥弥による二人展「透明を留める新鮮」を開催いたします。
伊藤美緒と宮川遥弥の二人が時間をかけて話し合いながら、展覧会と共に、一冊の本を作ることを目的とした今回の企画。
画家本人しか辿り着くことが出来ない、制作時に起こる様々な現象や、混ざり合い、そして繰り返される消滅により辿り着く、奇跡的な均衡。
辿り着いたその先は、二人にとっても未知の領域かもしれません。
伊藤美緒と宮川遥弥の二人の、「透明な領域」に留め置かれた作品の数々を、この機会に、是非ご高覧下さい。
「透明を留める新鮮」に寄せて
画家は、自身とキャンバス、または絵の具とのやりとり、そしてその先で起こったことを、必ずしも全て言葉で説明でき
るわけではありません。
キャンバスに重なっていく色や筆の動きと、画家の観察や体験は、非言語の領域で結びつき、完成・未完成という曖昧な
境界線を行き来しながら、最終的に絵画となって目の前に立ち現れます。
その透明な領域は、描く画家自身であっても、油断しているとすぐに取り溢してしまうほどに繊細で、それでいて流動的です。
今回の展覧会は、同名の本を制作することと並行して準備されました。
言葉も、意味自体の他に、文章になった時の言葉選び、音、文字の並びの形など、さまざまな非言語の領域を持ちます。
絵画における色彩やマチエール、本の中での紙の手触りなども同様です。
それらが世界の中で、モビールのように、それぞれが独立しつつも繋がりあった時の均衡からみえるもの。見ることも触れることもできない領域を、世界に留めるために必要なこと。
それらに出会う瞬間について。
2024/10/29 宮川遥弥
【 開催概要 】
会期:2024年11月9日(土)〜11月24日(日)
休廊:月曜日・火曜日
営業時間:11:00〜19:00
〒152-0022 東京都目黒区柿の木坂1−32−17
TEL 03-5726-9985
info@katsuya-susuki-gallery.com
https://katsuya-susuki-gallery.com
東急東横線「都立大学駅」より徒歩5分
夜の海から薄ガラスを掬い上げるような
伊藤さんの絵からは、時間すら離れていってしまうほど遠くからやってきた星の光のような、水面ではなく、海底から空を見上げた時に見える月のような、そんな手触りがする。
目の前で起こった何かに、必ずしもその場で気付ける訳ではないのだと、改めて思えた。
何年も前に見て、特に深く理解もできずにそのまま忘れていた展覧会で、自分が一体何を感じていたのかを、誰かとの会話の中でふと理解し、ぽろぽろと話し出せたりするように。
何となく見て気になっていた小説の一節が何故美しかったのかを、音楽や映画の中で突然気付けたりもするように。
それは、抱いた感情が、みた光が、目の前の生きている世界と結びつくまでの時間を、言葉にしない、できない、したくない領域で、じっと留め続けることができたからこそ、起こり得た遭遇なのだと思う。
言葉の力はとても強くて、一度その言葉が感覚に固定されてしまうと、他の微細な感情や現象すらも、一緒くたに絡め取って、輪郭を作り、パッケージ化してしまうこともある。
もちろんそれは何も悪いことばかりではなくて、たくさんの物事を言葉にし、残すことで、人は経験や歴史を積み上げて、だからこそ築かれている今が存在する。
その中で言葉は共有、表現され、そうして、理解、共感される感情の範囲は増えていったはずなのに、一方で、必ずしも理解や共感などでは救われない、孤独の中での極めて個人的な揺らぎを、多くの人が無視することができなくなっている現状も、また事実としてあるように感じる。
伊藤さんは、その温かな深淵に身を置き続けている。
深く潜ったその先で、指先に触れた僅かな感触を、少しずつキャンバスに積み重ねている。
手繰り寄せた透明な輪郭が、決して冷たさだけで作られていないことこそが、もしかしたら、「希望」と呼べるような何かの形なのかもしれない。
宮川遥弥
ー 伊藤美緒 Mio ITO ー
2019 同大学大学院修士課程油絵コース 修了
2017 武蔵野美術大学造形学部油絵学科 卒業
[主な展覧会]
2024 指のはらで剥がした雲間(A倉庫)
2021 木曽ペインティングス(長野県木曽郡)
2020 ignore your perspective 55「Reforming Perceptions」(児玉画廊|天王洲)
2019 武蔵野美術大学優秀作品展(武蔵野美術大学美術館)
2018 Slide,Flip,and Turn (武蔵野美術大学図書館)
[個展]
2024 くもの巣に、ひっかかった花びらは綺麗だからとゆるされてほしい
(GALLERY HAYASHI+ART BRIDGE)
2022 ゆれてどこまでつづくやら(児玉画廊・天王洲)
2022 Moon and waves (tata)
2021 今日の正体 Current Placing (児玉画廊|天王洲)
2019 Ad lib(数奇和)
『pink』 51.0 × 43.0cm oil on canvas 2024
軽やかな愛
サイコロを転がして止まった時のワクワクや、桜の花びらがひらひらと落ちるのを眺める時など。宮川さんの絵を見ていると、つい目で追いかけてしまうシーンを思い出すことがある。絵は止まっているものである。が、層によって細やかに変わるタッチや、記号にも壁(もしくは暗闇)にもみえるものの正体は、見ていて時間の往復を心地よくさせてくれる。絵画の成立に必要不可欠なイリュージョンは持ちつつ、穏やかさが静かに続いていくような感覚になるのは彼の特徴じゃないだろうか。そして技術だけでは「穏やかさ」は見せることは出来ないはず。どのように世界を見ているのか、ヒントは写真にあると考える。
習慣的に写真を撮るらしい。フィルムカメラで撮った写真は、すぐには確認できない。現像した中の一枚に「これは一体何の写真?」と聞いてみたことがあった。エメラルドグリーンの光が縦に真っすぐ走っているような、美しく不思議な写真を指さしたが、本人もどこで撮ったか何の写真なのか朧気なようだった。たまに、おさめようとした光景の想定を外れていく、現像してから発見するものがある。その不可思議さを楽しむような距離感は制作でも見られる。絵を描く身体と見る身体をうまく切り離し、緩やかなハプニングをキャンバスに落としこんでいくような。絶えず世界では色んなことが起こっているが、その中でも「生活」する上で、自分が出会える範囲の新鮮さを常に追っているようだ。
日常生活で直接的に関係のないものに興味を持ち、記憶の隅にとっておくことは簡単ではない。愛を持って接する、とはこういう事なのかなとふと思う。人にだけではなく、犬や建物、海や山など。愛は何とも抽象的な言葉だが、見えたものに関心を持ち互いに程よい距離感で付き合うことだとすると、その中で咀嚼された形や色は、キャンバスの上で軽やかに現れるのではないかと思う。そして完成した作品は、本人にとっても鑑賞者にとっても新たな出会いを生むのだ。ふと足を止めてシャッターを切るのと同じように、絵画の中で起こっていることを自然と目で追ってしまうような、そんな穏やかな時間をつくってくれる存在なのではないだろうか。
伊藤美緒
ー 宮川 遥弥 Nobuya MIYAGAWA ー
1991 高知県生まれ
2015 多摩美術大学 絵画学科 油画専攻 卒業
2017 多摩美術大学大学院 絵画専攻 油画研究領域 修了
[個展]
2022「すずめの距離感」 KATSUYA SUSUKI GALLERY
2022「彩るということについて」 Penguin’ s House Green
2018「電球をとりかえるように」 634 展示室
[グループ展]
2024「寺本明志 宮川遥弥 二人展 翌日を待つとき」 PARK8
2024「多摩美術大学助手展 2024」多摩美術大学アートテーク
2024「香美ア―トアニュアルvol.12 -混迷の時代の中で-」 香美市立美術館
2024「Elsewhere Opening Exhibition」 DAFU
2023「多摩美術大学助手展 2023」多摩美術大学アートテーク
2022「多摩美術大学助手展 2022」多摩美術大学アートテーク
2021「犬も歩けば棒にあたる 寺本明志 × 宮川遥弥」 Art space Kaikas’
2021「多摩美術大学助手展 2021」多摩美術大学アートテーク
2020「PERMINUTE s/s コレクション × 宮川遥弥 Sarcophagus」 渋谷東口ビル
2020「スーパーソルト クラブリゾート」 逗子海岸
2020「TAMABI Trial Exhibition ANYHOW, 」多摩美術大学アートテーク
2017「アタミアートウィーク2017 ~天つ風むすぶ熱~」熱海市内
2016「アタミアートウィーク2016 ~流れ澱み沸き漂う~」熱海市内
2016「O’ YA 展Ⅴ」MONDAY ART SPACE Etc.
[成果展]
2024「絵画の筑波賞展2024」 豊里ゆかりの森美術館・アーロンギャラリー
2023「長亭GALLERY展 2023」 長亭 GALLER
2023「第58回 神奈川県美術展」 神奈川県民ホールギャラリー
2022「長亭GALLERY展 2022」 長亭 GALLERY
2019「BankART AIR OPEN STUDIO BankART Station
2018「第9回 はるひ絵画トリエンナーレ」 清須市はるひ美術館